2022年8月13日土曜日

黒部源流 赤木沢

赤木沢出合

都岳連プロガイド養成委員会の企画で久しぶりに赤木沢に行って来ました

山と渓谷2007年11月号の取材で上ノ廊下から赤木沢へ継続した時以来でしたからなんと15年ぶり この時は家族で登る三回目の上ノ廊下の一環として赤木沢を遡行した記事をグラビア5ページで特集していただきました

昨年も赤木沢を企画しましたが最悪の天候で、もし行ったら遭難間違いなし!という状況でしたので森吉山の桃洞沢に変更しました
しかしながら赤木沢へのリクエストは根強いものがあり、それで今年も再企画しました

最盛期の赤木沢は薬師沢小屋の予約がとても困難です
4月に予約を行い、更にレンタカー(大型ワンボックスカー)の手配などもあり事前準備が大変でした

ところが苦労して手配したにもかかわらず、直前になってコロナ禍等でキャンセルが相次ぎ、レンタカーの解約、山小屋への人数変更などで関係者に平謝りとなりました
結果として参加者はたったの2名となり、それにガイド2名ということになりました
参加者側から見れば豪華、主催者側の都岳連プロガイド養成委員会としては完全な赤字企画
委員長の私は財務的な責任も負っていますので頭が痛くなりました このコロナ禍で多くの事業者が同じような苦労をしているのではないでしょうか

素直ガイドは8月3日の夜行バスで日大山岳部ヘッドコーチとして日大山岳部の指導を行うために剱立山へ入っているので10日に下山してもらい「立山アルペン村」で合流予定です

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8月10日
19時に東京駅八重洲地下駐車場を出発 途中、大月~勝沼間で事故渋滞があり、カーナビの到着予想時刻は8月11日4時半を表示しています
なるべく早く「立山あるぺん村」に到着して仮眠時間をとりたいので休憩なしで運転しました
奥飛騨温泉郷までノンストップで走り抜け、1時30分に「立山あるぺん村」に到着

売店の軒下で日大山岳部の夏山合宿から下山してきた素直ガイドが仮眠しているのを確認し、2時過ぎに私たちも横になって眠りにつきました



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8月11日
5時起床 「立山あるぺん村」にはセブンイレブンがあるので大いに助かりました 朝食もしっかり摂り5時半に出発 有峰林道の亀谷(かめがい)ゲートは6時オープンですがすでに長蛇の列でゲート通過に30分かかりました 有峰林道の通行料金は2,000円です ヨセミテのゲートと同じように入る時には料金を支払いますが、出るときには支払う必要はありません

折立には無料のキャンプ場があって、ありがたいことに熊よけの電線柵が設置されています きれいなトイレや炊事場もありますから、このキャンプ場で夏休みの数日を過ごしたらどんなに素敵なことでしょうか もう10年たって孫たちが中学生頃になったら、ここでそんな夏休みを過ごす日があったらいいなぁと思いました

今日は薬師沢小屋までの予定なので、まずは太郎平まで標高差1,000mを登って稜線にでて、そこから黒部源流に建つ薬師沢小屋まで標高差400mを下ります

登山口から1870m三角点までのペース配分がすべての鍵を握っています
今回の参加者には事前に1時間当たり400mの標高差を登る体力をつけておくことが必須条件ですと言い聞かせていました
経験の浅い他の登山者は歩きはじめの1時間でグリコーゲンを使い果たしてしまいます
1時間で標高差400mを登ることのできる体力を持ったうえで登高速度を標高差200m前後にコントロールしながら登っていきます ですから歩きはじめの歩行速度は異様なスローペースで他の登山者たちは私たちをどんどん追い抜いていきます
一方で参加者は元々400m登れる体力を持っているにもかかわらず200mで登るわけですからかなり余裕をもって登ることが可能です
三角点を過ぎると展望が効き始め、道も階段状となってぐんぐん高度を上げていくことができます

途中で登山者に声をかけられました 昨年剣沢幕営場で私からハンマーを借りたことがあると言っています 私たちはピトンを打つためにロックハンマーを持っていたので、それを貸したことがあるようです よくぞ覚えてくださったと感心しました

天候は晴れで目の高さに積雲が羊雲となって富山平野上空に浮かび、その上には高積雲がレンズ雲をいくつも作っています そして最上層には巻雲が全天に展開しています
つまり明日の天候はあまりよくないようです
参加者たちは羊雲を見て、猪熊さんの講習会を引用して「天候が安定している」と発言しています

相変わらず1時間当たりの登高速度標高差200mを維持しながら登っているのですが、標高2200mを越える頃には登山口で私たちを追い抜いて行った登山者たちが道端であおむけになってひっくり返っています

余力を残して太郎平に到着
ここ太郎平小屋には富山県警山岳警備隊が常駐しているので登山計画書を提出 予定しているコースに直近のトラブルがあればアドバイスをもらえる可能性があるからです 特段変化はないようです
ここから電波の届かない地帯へはいるので、情報チェックを行ってから黒部源流に向かって下降を開始しました

太郎平から薬師沢小屋までの道は整備されていますが、途中で一か所だけ危険個所がありました 一般登山者の多くはこの危険個所に気づくこともなく通過しているのでしょう
この場所では素直ガイドが「ここは死亡事故になるから注意して歩いてください」と参加者に声をかけていました さすがですね

昨夜の睡眠不足に悩まされるようになったころ薬師沢小屋に到着しました
薬師沢小屋は15年前と変わりなく黒部川に突き出た細い岬の上にしがみつくように建っていました
受付で対応してくれた女性はとても感じの良い人で思わず笑みがこぼれるほどでした
さっそく缶ビール(350ml)で乾杯!
明日の出発が早いので朝食を弁当に切り替えてもらいました
私たちの部屋は二階の「槍」という名の個室をあてがってくれリラックスすることができました
夕食は17時50分からで15分ほどで食べ終え、アラームを3時30分にセットして18時40分に就寝しました

下山してから知ったことですが理想的な山登りを続けていた木下徳彦さんがこの日、山で他界されました



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8月12日
3時半起床
4時過ぎに小屋の外へ出てみると雨粒を感じました
昨日の予想通り、天候は悪化したようです

赤木沢の核心部はアプローチにあります 赤木沢出合まで黒部川を遡行するので増水の危険にさらされますし、出合の手前にある淵の高巻が崩壊中で危険だからです
出発の一週間ほど前に都岳連事務所で作業をしている時に、別の仕事で都岳連事務所にいた財務部長で指導委員会委員長の本郷さんと会話する機会がありました
赤木沢の話になりましたが「赤木沢の核心部はアプローチにあり」という共通の認識を持っていました

小雨模様が本降りになったりしましたが、大きな天候の崩れはなく、したがって増水もなく黒部川を左右に2回ほど渡渉しながら遡行することができました
赤木沢出合の手前にある淵は崩壊中の斜面をスタカットで登り、10mと15mの懸垂下降で通過することができました

赤木沢は出合の左岸をトラバースして入渓します
それからの赤木沢は雨模様にもかかわらず美しさで私たちを魅了してくれます
歩きやすく優美なナメ滝をひたひたと歩く快感に酔いながら遡行を進めていきました
やがて大滝
大滝の迫力に参加者は感嘆しています
30m+10mのロープフィックスでスピーディーに通過
大滝通過後も魅力的な小滝が連続し、インゼル状の右の滝を登って源流に突入
稜線の悪天候が予想されたのでここで雨具のズボンを着用
地形図を参照しながら慎重に登路を選択し、ドンピシャで中の俣乗越にでました

稜線の状態は案じたほどでもなく強風によりヨロケルことはあったにせよ順調に歩くことができました
赤木岳から北ノ俣岳の東斜面にはチングルマとハクサンイチゲがガスの中に満開でした チングルマは他の場所ではすでに綿毛になっていましたから、この場所特有の気象条件が大きく影響しているのでしょう 恐らく雪渓が遅くまで残っているのではないかと想像しながら歩きました

14時30分に太郎平小屋に到着すると都岳連認定ガイドの池田さんがいました 池田さんは所属する千葉岳連「船橋剣稜登高会」のメンバーと薬師峠で幕営しているとのことでした 無償で後輩たちを育成する姿に「本当に偉いなぁ~」と感心しました
太郎小屋へのチェックインの準備をしていると素直ガイドが山慣れた男性と親し気にしています 冬の早月尾根や夏の剣沢でいつも会う富山県警山岳警備隊員の方とのことでした
太郎平小屋では二階の「みずばしょう」という個室をあてがってくれました
6人部屋でゆとりもあって快適にくつろぐことができました
予定よりも早い到着で時間的な余裕のある一日でした
談話室で缶ビール500mlとワンカップを呑みました
談話室での会話を聞いているとみんな深田百名山の話ばかりをしています
薬師岳が深田百名山であることをすっかり忘れていた私は太郎平小屋に宿泊しているほとんどの人が深田百名山の薬師岳登頂を目的としていることを知り、少々驚き少々さみしく感じました



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8月13日
4時半起床 5時朝食
きちんと身支度を整えて5時45分に下降を開始しました
案じていた台風の影響はなく穏やかな稜線を下降していきました
9時15分に無事折立に帰着

キャンプ場の水道で水をかぶりたいと思いました
その為に二週間前にプラスチック製の風呂用手桶を買って用意したあったのに車に積むのを忘れていました
そうしたら素直ガイドが空の2リットルペットボトルを車に積んでいて、それを使って頭から水をかぶりました
近くに女性がいたので「申し訳ありません」と言ったら
「とても羨ましいです・・・私が男性だったら私も水を浴びたい」とおっしゃっていました
女性でも下山地で水浴びができるようにブラインドテントを用意したら喜んでもらえるかもしれません
この水浴びのおかげで体はさっぱり爽快です

帰りの有峰林道は東谷(ひがしたに)ゲート経由で飛越トンネルを抜け双六谷の金木戸を経由して沢渡へ抜けました
案じていた小仏トンネルの渋滞は奇跡的になく、16時45分に四街道の自宅に帰着することができました
折立を10時半に出発し17時前に帰宅できるとはかつて経験したことのないような驚異的な記録だと思います

帰宅してから山小屋に人数の大幅な変更をしてご迷惑をおかけしたことを詫びるメールを出しました
小屋からは暖かい返信がありました 何かと気苦労の多い赤木沢ですが、このメールを受けて来年も赤木沢を企画しようと思いました
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賀来様
 無事に下山されたとのこと、お疲れさまでした。
 コロナ禍、天候等キャンセルのリスクの高い中、赤木沢を訪れていただけたことにご縁を感じます。
 またのお越しをお待ちしております。
太郎平小屋グループ ロッジ太郎
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薬師沢小屋への道から振り返る太郎平小屋と薬師岳

薬師沢小屋

薬師沢小屋の夕食

赤木沢出合直前の懸垂下降

2004年 初回の上ノ廊下遡行時の赤木沢出合
先頭から長女、次女、素直ガイド(素直ガイドは中学1年生でした)

赤木沢

赤木沢

赤木沢大滝

北ノ俣岳付近のチングルマの綿毛

太郎平小屋の夕食

太郎平小屋の朝食

太郎平小屋の朝


愛知大学遭難慰霊碑




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