2013年10月3日木曜日

第三段階へ入りつつある捜索活動


922日に実施された懸垂下降による捜索によって、ともかくも鉄人土橋がアプローチとした東鎌尾根の捜索は一つの区切りをむかえた

捜索の要点を簡単に振り返ってみたい
この要点は今後の捜索活動のメインステージとなる北鎌尾根においても共通するものになるかと思う

1.転落方向の想定
天上沢側と槍沢側のいずれの方向へ落ちるのかを地図上にプロットしていく
この作業を最初に実施しないと、天上沢側に登山道が切り開かれているにもかかわらず、槍沢側を捜索するというようなことが発生する。限られた時間の中で捜索活動を効率的に行うに当たり、まず最初に実施されるべきことがらである

2.発見難易度の評価
転落する方向を想定したら発見難易度という視点で稜線上の各地点の評価を実施し発見難易度の高い地点をマーキングしていく。転落する可能性が高くとも、発見難易度が低い場所は対象外とする 転落後、土橋が自らの力でブッシュの中へ移動するケースは現時点ではあえて考慮しない なぜならば限られた捜索資源下においては一定の絞込みをせざるを得ないからである

3.リファレンスマップの作成
捜索メンバー間で場所情報の共有を図るために基準地図が必要
この地図は国土地理院の地形図を元にし、それぞれの谷にナンバリングを施しておく
ナンバリングと地形図上のコンターラインが示す標高値によって、捜索メンバー間の場所情報の共有化が可能となる


4.捜索手段の選択
上記三点を踏まえた上で捜索手段を選択する。代表的な捜索手段は次の三種類になるが、これ以外にも、ラジコンヘリ、捜索犬などいくつかの手段が考えられる 
 A:望遠鏡による捜索
対岸に位置する尾根からの「三脚に固定された高倍率望遠鏡」による観察、あるいは稜線上からの双眼鏡による観察である。観察した範囲はリファレンスマップ上で表現できるようにしておかなければならないし、同時にゴルジュなどの死角となる範囲も明らかにしておかなければならない。また、死角になった部分も観察位置を移動することによって観察が可能となるかもしれないので観察地点の情報も明確にしておく必要がある。登山道に準拠した場所からの観察を前提にしているが上記理由から捜索メンバーには読図能力が求められる
  B:人力による実地捜索
望遠鏡による捜索で死角となった部分を捜索する手段の一つが人力によるものである。人力による捜索は安全管理上もっとも悩ましく、捜索可能範囲が狭く、効率の低い捜索方法であるが、ゴルジュなどの死角となった個所を確認するには最も確実的な方法の一つである。捜索形態としては谷筋への懸垂下降と谷の下部からの遡行が主体となるので、ロープの扱いに習熟し、渓谷遡行も含めた豊富な経験を持ち合わせたメンバーが東鎌尾根の場合56名以上必要である
  C:ヘリコプターによる捜索
圧倒的な機動力を有する行方不明者捜索の切り札。ただし遭難者側からははっきり視認できているにも関わらずヘリコプター捜索で発見されなかったケースがいくつか報告されおり、必ずしも万能ではないようだ。一時間当たり50万円から70万円ほどの出費となるので、山岳保険の捜索限度額が300万円とすると4時間から5時間の捜索が可能


これまでのところ、123を行った上で4の捜索手段として東鎌尾根に対してはABCが、北鎌尾根については一部の例外を除いてCを中心とした捜索が実行された。

捜索活動は毎回長野県警に計画書を提出した上で実施し、捜索結果は所定の書式で報告書として共有した上で、さまざまな情報が毎日のようにネットを介して共有されているが、東鎌尾根の捜索が一区切りついたことから、もう一度、関係者が実際に集まってベクトルを一致させた方が良かろうということになり第二回遭難対策会議が929日に千葉県柏市で開催された。
この会議で次のような点に関してベクトルの一致がおこなわれた

1.922日の懸垂下降による捜索で東鎌尾根の地上からの人力による捜索は一区切りついた
2.北鎌尾根の稜線直下の捜索については安全管理上の問題からヘリコプターによる捜索を主体とせざるを得ないが、上記理由により地上からの人力による捜索も、捜索範囲に北鎌尾根を含めざるを得ない段階に至った
3.北鎌尾根の独標付近から山頂までの区間に対する地上捜索は安全管理上の問題からデポ品の確認とテレスコープによる捜索とする
4.北鎌尾根の天上沢側千丈沢側についてのテレスコープによる捜索を本格化する
5.あわせて合理的な捜索活動を追及する。捜索対象を明確にし、定量的な報告を行うことにより、チームとしてのパフォーマンスの最大化を図る
6.越年を視野に入れざるを得ないが、上記方針は越年後も継続される。

その他
1.ヘリコプター捜索は10月11日実施予定
2.デポは113日までに一旦回収し、来年度はあらためて6月より必要に応じて荷揚げを実施する
3.独標から北鎌平間の稜線上からの懸垂下降は原則として行わない
4.北鎌尾根の千丈沢側斜面のテレスコープによる捜索は、西鎌尾根上からが妥当である
6.北鎌尾根の北鎌沢左俣のテレスコープによる捜索は、牛首またはびっくり平が妥当である
7.テレスコープによる捜索は捜索範囲の理解を補助する為に写真撮影を行う
8.国土地理院の地形図加工ファイルを配布し、これをリファレンス地形図として運用する
9.ロープによる積極的な懸垂下降捜索は一段落したので、セミスタティックロープはデポ品回収対象とする
10.12日からの三連休の捜索は北鎌尾根の千丈沢側と天上沢側のテレスコープ捜索をメインとし、場合によっては北鎌平への下降を行う
11. 会計報告
12.第三回遭難対策会議は11月第1週または第2週をめどに開催する

北鎌尾根稜線上からの懸垂下降は鉄人土橋を発見し、彼を回収する場合に限定し、捜索用としては行わないことを決めた。ひとえに安全管理上の問題を危惧しての結論である。
RCC神奈川の池さんの例でも懸垂下降による実地捜索ではなく北鎌尾根の稜線上からの双眼鏡による捜索によって発見されている。

今週105日は準備。1011日のヘリコプター捜索を経て14日まで10名のメンバーが捜索活動として現地へ入る。

以下9月20日から23日の懸垂下降を中心とした捜索活動の様子を簡単に写真で紹介したい
今回の捜索は、ロープの扱いに習熟したメンバー安藤、西村、上田、賀来と4名が揃うのではじめから懸垂下降による実地捜索を予定していた。しかも22日に懸垂下降捜索が完了しない場合は、23日に入れ替わりとして谷川、尾崎が入ってバトンタッチするという計画であった。
サポートとして三好、川面、そして私の妻が入山した
また岐阜の村田氏が天上沢へ入り東鎌尾根の側面を高倍率テレスコープで観察捜索を行った



他のメンバーよりも一日早く入山した私と妻は「Y-E」の谷へ実地捜索へ入った
槍沢に待機してもらった妻と無線交信しながら稜線まで遡行
2630m地点でエンジ色のテントの残骸を確認したのみ
帰路は先週チェックした懸垂下降ポイントの再チェックと整理統合を行った



レスキュー時の懸垂下降では途中でメインロープの連結などの作業が必要
セミスタティックロープによる作業は非常に楽だ




ダイナミックロープとセミスタティックロープの差は登り返しのユマーリング時に顕著にでる



懸垂下降は支点づくりも重要
必要に応じて稜線上の岩塊などと組み合わせて行う




「T-E」の谷
稜線からおおよそ100mほど下降すると断崖絶壁となる





「T-F」谷の右俣の懸垂下降捜索を終えて登り返す





ババ平のベースキャンプ




最終日下山途中の横尾で谷川・尾崎パーティーへ情報の引き継ぎを行う




もし私が、同じように行方不明になったら
土橋は私たちが今こうして探している以上の情熱をもって私を探すだろう
だから私たちは土橋を探す


2 件のコメント:

Motoaki Kaku さんのコメント...

10月11日に予定されていましたヘリコプター捜索は、10月16日に延期されました

Motoaki Kaku さんのコメント...

本日16日に予定されていたヘリコプターによる捜索は台風の直撃を受け、再度延期されました
延期後の日程は10月30日、バックアップとして31日を予定しております