中山尾根上部岩壁
息子の日大山岳部時代の同期で、共に現在は日大山岳部コーチをしている哲史君を交えて三人でアルパインクライミングをしに八ヶ岳へ行くことになった ただし私は彼らに条件を出していた
「共同装備はいっさい二人で担いでくれ」というもの
その結果、彼らのザックはそれぞれ33kgなのに私は18kgに収まった
形式的には彼ら二人の5泊6日の山行に二日間だけ私が参加するというもので、リーダーは少なくとも私ではない
従って利用交通機関や食糧計画などもすべて若人二人にお任せである
3月9日
金曜日は休暇をとって木曜日の新宿バスタ20時15分発の夜行バスで茅野へ向かった
彼らの計画書には茅野駅ステーションビバークとあり、実際に茅野駅の通路にマットを敷いて仮眠した
茅野駅にて
3月10日
翌、金曜日の朝、タクシーで美濃戸口へ向かうが寒気がまだ抜けきっておらず、ガスがかかって稜線近くは悪天候の模様 美濃戸口から美濃戸への林道は凍結しておりクランポンの装着が必要な状態で、雪が降っていた
入山日の金曜日に登って、翌日はのんびり下山したいと思っていたが、この天候では横岳西壁の諸ルートは登りたくない計画を変更して南沢小滝でアイスクライミングをしてから行者小屋ベースキャンプを設営することになった 今回はアイスの計画ではなかったので、アックスはドライツーリング用ピックに交換してあるし、クランポンは冬壁用にベイルで短く調整した平爪 アイススクリューも4本しか持ってきていない
それでも各人15本づつトップロープで登った
15時近くになって行者小屋到着
行者小屋の幕営地は電波状態の良い場所とそうでない場所があるそうで、テントを張る場所をスマホのアンテナ状態を見ながら決定する
担ぎあげたテントは我が家の「ダンロップV6+外張」と三人利用としては極めてゴージャス
以前にも記述したことがあるが、冬の幕営地としては異例なことに行者小屋には厳冬期でも凍結しない天然の水場があり、雪を融かして水を作る必要がない
家にあったホエーブスを持ち込んで夕食づくりを見ているのも楽しい
メニューは乾燥野菜などがたっぷり入ったビーフストロガノフ、アルファ米、スープ
食後にはスペシャルメニューとしてチーズフォンデュ!私は食べきれなかった
夕食後、明日の行動予定を相談する
明日下山しなければならない私は美濃戸口16時30分の最終バスにどうしても乗りたいし、美濃戸口で風呂にも入りたい
逆算すると行者小屋を13時に出発できればOKということになった
ヤマテンによれば明日は晴れだというから、どこへ行っても大丈夫そうなので中山尾根を登ることにして就寝した
アルファ米
ホエーブス725
チーズフォンデュ
3月11日
東日本大震災の日である
月明かりが煌々と山を照らし、風がない
神々しいとはこのことだ
5時 暗い中ヘッドランプを灯して出発
幸いにも数日前のトレースが残っていてそれに沿って登っていくが、上部になるとトレースも風に運ばれた雪で消えていた
腰まで雪に埋もれながら、6時半過ぎにようやく取り付き到着
6時50分登攀開始
中山尾根には過去二回ほど来たことがあるが、二回ともひどい悪天候で一ピッチ目を少し登っただけで這う這うの体で退散しており、ほぼ初見である
1ピッチ目 少し下降して右の凹状部を登るのが本来のルートであるが、最近は正面の壁も登られているようだ 私たちも正面の壁を登ることにする 短く調整したクランポンの平爪と岩の相性は抜群に良く、しかも要所にペツルのハンガーボルトが設置されており、登りやすい ドライで登り20mでピッチを切る
2ピッチ目 ビレイポイントから左側の凍結した草付きをダブルアックスで登り稜線に出て30m ダケカンバでビレイ
3ピッチ目 雪の固く締まった易しい雪稜を60m登ってダケカンバでビレイ
4ピッチ目 息子にリードを代わってもらい雪稜を50m登って、上部岩壁基部のビレイステーションでビレイ
5ピッチ目 独標登高会の「八ヶ岳研究上」に掲載されているトポをコピーして持ってきているが、それにはここから右方向へ35mトラバースすると書かれている
それに従い30mほどトラバースしたところから登れそうなラインをさがして登り始めた
ノーピンでしばらく登ったが、岩にクランポンのひっかき傷が見当たらない
ルートではないようだとビレイしている息子に大声で言うと
「俺のすぐ右上にペツルのハンガーが見える」という
ランナーのない慎重なクライムダウンを経て、息子たちのいるビレイステーションまで戻って右上を見ると確かにペツルのハンガーがある 右へ35mどころか3mのトラバースではないか・・・「くそったれ!」30分もロスしてしまった
薄被りの凹角を二つ登る 長年多くのクライマーのクランポンの爪に痛めつけられた岩は削れて、まるでチッピングでもしたかのようだ 30mでビレイステーション到着
若人二人も順調に登ってきた 二人ともインドアクライミングをそれなりに登り込んでいるし、哲史君などはボルダーの1級を登るほどの力量をもっているから当たり前といえば当たり前か・・・
6ピッチ目 定かな記憶がない おそらく易しい雪稜だったのかな?
7ピッチ目 正面の壁を少し左に回り込むようにして小ハングを登り、稜の左側斜面を登って稜線の右側へ移ってビレイ 日陰になっていた場所から日向に飛び出て春の日差しを暖かく感じる このピッチ30m
8ピッチ目 フォローの息子と哲史君には、ロープを付けたままで安全地帯の縦走路までトラバースしてもらいロープをほどいた 11時20分
記念写真を撮ったりギアを整理し11時40分下降開始
1ピッチ目の息子
同じく1ピッチ目の息子
1ピッチ目の哲史君
1ピッチ目終了点での若人二人
7ピッチ目終了点からみる赤岳
終了点の若人二人
12時ちょうどに地蔵尾根の下降にとりかかる 25分で行者小屋到着
時計を見ると12時半前なので予定通りの時刻だった 中山尾根終了点から行者小屋まで40分で下降したことになる
さっそくパッキングをして13時ちょうどに若人二人を行者小屋に残し私だけ下山開始
15時半には美濃戸口の八ヶ岳山荘に到着し、最終バスの出発時刻まで1時間あるので入浴
そして風呂上りに缶ビールを1本呑んでバスに乗り込んだ
茅野駅では待合室の中にある立ち食いそば屋「白樺」で「特上かき揚げそば」を食べ、職場の女子向けの土産を買って列車に乗った
車窓からは夕陽が横岳西壁を紅く染め、中山尾根の特徴的なM字岩壁がくっきりと見えた
楽しい二日間だった
一方で自宅に取り残された妻は本日土曜日に一人で習志野へ赴き、念願のH壁白バーをトップアウトしたという
感心したというか尊敬した
--------------------
2017/03/31追記
息子たちは中山尾根の翌日から下記ルートを登った
3/12 赤岳主稜
3/13 石尊稜
そして3/15に帰宅したが翌日から甲斐駒ケ岳へ向かった
行者小屋幕営地
美濃戸口の八ヶ岳山荘
シャンプーなど揃っており入浴料金500円
「白樺」の「特上かき揚げそば」は410円
車窓から見る横岳西壁が夕日に紅く染まっていた
一方で自宅に残された妻は一人で習志野でクライミングをしたという
素晴らしい!