2012年10月11日木曜日

新旧イラスト・クライミング


図解を用いたクライミング技術解説書としてはクラブアルピノ高嶺会員・RCCⅡ同人の須田義信氏による「イラストレイテッド クライミングの基礎技術 Let' Go Climbing」が私の知る限り嚆矢かと思う。

その後、フリークライミングの浸透にともなって図解、写真を多用した解説書がいくつか出た。

今回、山歩きを通じた職場の親睦団体「7aハイキングクラブ」向けにロープワークをもう一歩踏み込んで教えるためのテキストブックを検討した

そして白羽の矢を立てたのが阿部亮樹著「イラスト・クライミング」だった
この本は2008年に発行され、当時、発行と同時に買い求め、その内容の充実度に感嘆した覚えがある。
そして今年2012年8月末に増補改訂新版が発行された。新版も登山用品店の店頭に並ぶとすぐに買い求めた。出張の折に立ち寄った大阪のロッジだった

この本の最大の特徴は著者であるイラストレータがクライマーであるという点だ
あるいは著者であるクライマーがプロのイラストレーターであると表現した方が適切かもしれない
過去の類書は、クライミングを理解していないイラストレーターが絵の部分を書いたというものばかりで、細かい部分で、実際にはありえない描き方が随所に見受けられ、漫画「岳」と同じように、読み始めてすぐにしらけてしまうということが少なくなかった。

ところが本書は違う
クライマーでなければ気がつかないような細かい部分まで、実際に即して表現されており、納得感は高い

新旧で異なる点は新版の冒頭に記述されているので、ここでは触れない。ひとつだけあえて言わせてもらうと、旧版では人物の瞳が描かれておらず、これがまるで死体のようで薄気味悪かった。新版では黒い瞳が入れられ、薄気味悪さは解消した

疑問に思う箇所がひとつある
それは半マストを使った懸垂下降を説明した「ムンター/イタリアン(懸垂 後輪)」の部分
半マストによる懸垂下降では制御手側のロープによってカラビナのゲートのロックが開放される点が私の最大の懸念点だった
私自身は20年以上前に気がつき、その後、半マストによる懸垂下降はよほどのことがない限り使っていない。易しい沢歩きでもビレイディバイスを必携としているので不都合は感じなかった
こう記述すると、冬季などは易しい岩稜でも懸垂下降する場合があって、そのような時にはビレイディバイスや下降器を持っていないことが多いはずで、どのようにして下降していたのか?と疑問に思う人もいるかもしれない
答えは簡単、ピッケルヒラリ環による下降だ。セットとリリースが圧倒的に早いので冬季の岩稜歩行などには機動性が高くとても重宝する

さて、半マストによる懸垂下降時に、制動手側のロープがカラビナのゲート方向にかからないようにセットする方法を本書では明示できているのか?
残念ながら不十分だと思う

図解の通りで、理屈としては正しいと思うが、実際にはロープをくぐったり、またいだりしなければこのようなセットは難しい
狭いテラスでこのようなことが現実的なのか、はなはだ疑問である

半マストによる懸垂下降のロープセットはカラビナをハーネスに連結したままで行うのでなく、カラビナを落としてしまうというリスクはあるにせよ、いったんカラビナをハーネスからはずし、後輪方式でセットするという方が現実的ではなかろうか
先輪方式ではないので、スピーディーにセットできるし、体へ覚えこませることができる

そこで、通勤時の電車の中にカラビナと6mmのロープを持ち込み、最寄駅から錦糸町に到着するまでの片道40分間、往復で80分間、繰り返し試してみた
私なりに一定の結論がでたので、現在は制動手側ロープの問題点は私自身の中では解決している

私の認識不足から誤解している点があるのかも知れない
より良い方法をご存知の方がいらっしゃれば是非教えてほしい



参考までに「7aハイキングクラブ」指定の技術解説書を掲げておく
つまり最低限これくらいの基礎知識は持っていてほしい。あるいは「こんなことも知らないで山へ登るのはいかがなものか?」というレベルのものをすでに二冊選定している
1.菊池敏之著「ハイグレード登山技術」
2.山本正嘉著「登山の運動生理学百科」
ちなみに「登山の運動生理学百科」は経験豊富な登山家にとっても示唆に富む内容となっており名著として名高いということを付け加えておきたい

阿部亮樹著「イラスト・クライミング」は天然の岩場におけるフリークライミングに特化した本だが、フリークライミングに限らず屏風岩東壁などの岩場を登る全てのクライマーにとって必読の書だと思う。
ただし「7aハイキングクラブ」のメンバーでは「解説なし」では理解不能なので・・・というよりも理解したつもりでも、それに付随する諸条件を理解していない恐れがある。
選定書の三冊目にするかどうかはもう少し検討する必要があると思う。
良書があれば、今後も随時追加していくつもりだ

写真は
上段が旧版イラスト・クライミング
下段が新版イラスト・クライミング
ご覧の通り、旧版の人物には目の瞳がないんです・・・

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

賀来さんの言っている須田義信氏による「イラストレイテッド クライミングの基礎技術 Let' Go Climbing」って、山渓で連載されていたのを本にまとめたヤツですか?それなら何となく覚えてますが・・・違うか。
フリークライミングの指導書といえば、すぐ思いつくのはマイク・ロフマンの「フリークライミング入門」、ギュリッヒの「フリークライミング上達法」位ですね。

ところで、「イラスト・クライミング」旧版の、イラストの顔に黒目がないのも気味悪いかもしれませんが、通勤電車の中で(朝は賀来さんの出勤時はまだ空いていそうですからまだしも、帰宅時まで)カラビナと6mmロープでゴチャゴチャやっている誰かも、他の人から見たら相当気味悪かったかも。隣の人、離れ気味に座ってなかったですか?

Motoaki Kaku さんのコメント...

もう30年以上前の記憶なので定かではありませんが
須田義信さんによる山渓の連載は、山岳会の中で口伝のようにして弟子から弟子へと伝えられていた岩登りのシークレットをあからさまにしてしまった。正直なところ当時はそう思いました。

通勤電車の中でカラビナのゲートが発するパチンという音と不気味な中年男

十分にグロテスクでしょうね
たぶん

息子は富士山へ行きました

一方、明日の私の予定は丹沢です
朝7時に大倉の神奈川県立山岳スポーツセンターに集合し、滝沢園の周辺にある石垣で懸垂下降の講習
時間があればモミソ沢出合の懸垂岩まで足を伸ばそうかと思っています