そうすることによって、事故を防ぐことができるようになる
そのような取り組みは昔から行われていた
古くは石岡繁雄氏によるロープ切断の実験に基づいた科学的究明が存在し
その事実を私たちに知らしめてくれた岳人誌における出海栄三氏の連載があった
そして決定打となったのがクライマー必読の書として知られるドイツ山岳会安全委員会による「生と死の分岐点」ではないかと思う
著者は安全委員会委員長のピッツ・シューベルト
本書は1994年にドイツで発行、1997年に邦訳され日本の登攀界に衝撃を与えた
ドイツ人気質の真骨頂ともいえる情け容赦のない徹底した論理的思考と、その帰結として導き出されたと思われる随所に掲載されている遺体の写真
この本によって、従来あり得ないと思われていたことが事故の原因になっていたという事実を突き付けられた
それにしてもドイツ山岳会の充実に感嘆するほかない
ヨーロッパの山岳会、たとえばフランス山岳会、イタリア山岳会、ドイツ山岳会は日本の山岳会とは似て非なるもの
国を代表する登山機関という意味では日本山岳協会に相当するが、日本山岳協会の会員は各都道府県の山岳連盟/山岳協会であって個人会員の加入は認められていない
未組織登山者の個人加入を認めているのは日本山岳協会の加盟団体の一つである東京都山岳連盟だけではなかろうか
物事に対する意識の高低は人によって様々だが、クライミングにおける事故原因に対しても意識の低い人が少なくない
例えばどこかの岩場でフリークライマーの死亡事故が起こったとする
私のまわりでも「気の毒に」という感想で終わる人が少なくない
なぜ事故が起こったのか、死亡事故に至った原因は何だったのか
ある死亡事故では「プロテクションの間引き」という話だった
プロテクションの間引きをするという呆れたクライマーがいるのかと思う反面、なぜ間引きをしたのかまで、多くの人は確認しようとはしない
死者を鞭打つのは避けたいという気持ちがあるのか、あるいは死者は戻ってこないのだから原因を知っても仕方がないとでも思っているのか
そのような態度でいると同じ事故を何回も繰り返すことになる
死んだクライマーも浮かばれまい
2002年には続編として「続 生と死の分岐点」が発行され、2004年に邦訳された。
「生と死の分岐点」と「続 生と死の分岐点」は目次を見ただけでは内容が重複していると思うかもしれないが、続編は正編を補強するような内容になっており上下二巻構成だと理解していいだろう
今現在、確立している登山技術にも危険性が潜在している
そしてある時、登山者の事故(多くの場合は死亡事故)によって危険性が顕在化する
正編が発行されてから18年、続編が発行されてからでもすでに10年が経過した
その間にあらたな危険性が顕在化したし、これからも顕在化は進行する。
そのような思考回路を持つようになるということが本書が持つ本当の価値かもしれない
そういった意味で、クライマーに限らず安全な登山に取り組もうとする人であれば初級者から上級者にいたるまで二冊とも必読の書だろう
そして私がブログやホームページでたびたび石岡繁雄氏を讃える理由をご理解いただけたかと思う
7aハイキングクラブの推薦図書にいずれは選定したいが、現行メンバーのレベルでは課題の意味さえも理解できないだろうし、仮に課題の意味を理解し得たとしても、その現実を正視できず、恐怖感ばかりが先行するのではなかろうか
当面はリーダークラスのメンバーに限定して推奨するという形にしたい
4 件のコメント:
この本、知ってはいましたが、こういう内容だとは知りませんでした。
97年というと、ちょうど、足の痺れと硬直が進んで、仕事も辞めざるを得なくなり、収入がなくなった不安と、原因がわからないまま進行する足の障害の二重の不安の中で、あちこちの医者を訪ね歩き、最終的に順天堂に入院した年です。さすがに、山だのクライミングだの、考えることすらありませんでした。
ですから、この本を知ったのは、本格的に再就職した04年以降のことだと思うのですが、題名だけ見て、勝手に「遭難事例のエキセントリックな部分だけを集めた本」と思い込み、買う気になりませんでした。
ちなみに、その再就職先も、先日会社の都合で退社せざるを得なくなりました。理由を書くと「風が吹いて桶屋が儲かる」類の話で長くなってしまうのですが、大元の原因は昨年の震災です。まさか、あの震災の影響が、回り回ってこんな形で自分に降りかかってくるとは思いませんでした。
まぁ、今は97年当時とは状況も違いますし、かと言って、このままリタイアしてしまうのもイヤなので、ノンビリ求職活動中です。
この本でも買って読んでみましょうか。
↑の書き込みが上手く行かなくて、ゴチャゴチャやっていたら、読者登録のメンバーが増えちゃいました。
飯田さん おはようございます
そうですね、1990年後半に大病されたんでしたね
正編に以下のような記述があります
ワールドカップでブーリンが禁止された時、イザベル・パティシェやフランソワ・ルグランが8の字結びが出来ず、審査員に結んでもらった
一度、体で覚えてしまったことを修正するのは至難の技だということがわかります
私もブーリンから8の字に切り替えるのに苦労しました
今日は、これから出勤です
明日は天候が崩れるようなので困ったものだと思っております
飯田さん、書きそびれたので追加です
「遭難事例のエキセントリックな部分だけを集めた本」とありますが、そう思うのは良くわかるような気がします
それは本のカバーデザインがとても悪いからだと思います
科学的な内容の本なのに死を暗示させるような文字装飾
カバーデザインは北山さんが担当したと書いてありました
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