2021年7月25日日曜日

イーハトーブ 葛根田川 13年ぶりの再訪


グランドジョラス北壁やヨセミテエルキャピタンノーズのように、一瞬たりとも精神的緊張を弛緩させることが許されない数日を要するバーティカルクライミングには人生のある部分を投げうちたくなるような強烈な魅力を感じますが、その一方で、私が大好きなもう一つの山の登り方があります
それが山旅です
奥深い山の中で数泊を要する山登りには旅があります
私には「四国遍路」や世界遺産「サンティアゴ・デ・コンポステーラ」などの巡礼に通じるものがあるように思えるのです
そんな山旅をオリンピック四連休を使って仲間と楽しんできました
その舞台として選んだのはイーハトーブの携帯電話の電波も届かない山奥
メンバーは気心の知れたいつもの四人です

7月21日
東京駅八重洲に集合して19時半に出発
夜の東北道には制限速度120㎞の区間があり渋滞さえなければ一気に走ることができます 佐野SAで夕食 紫波SAで休憩 そして25時に盛岡ICで盛岡市内へ セブン-イレブン 滝沢大釜店の裏にある広い駐車場の片隅でビバーク コンビニで寝酒を調達

7月22日
コンビニで朝食を用意できるのでとても助かります ついでに三日分の行動食の補給も行いました 小岩井農場の近くを走って滝ノ上温泉に駐車 2008年に長女と遡行した時にはなかった休憩舎があって登山の基地としてとても便利になっていました

駐車場からは東北電力の地熱発電所を見ながらしばらく舗装路を歩きます 舗装路から更に川沿いの杣道をたどり、杣道の終点から葛根田川へとブナ林の中を100mほど下ります
ブナ林の中の下降路はぬかるんでおり杣道の終点で渓流シューズに履き替えるべきでした

しばらくは単調な河原歩きが続きます 2005年に単独で来た時に使用したビバークサイトの河岸段丘を右に見て大ベコ沢出合を通過します
やがて葛根田川の最大の見せ場である函に到着 おおむね左岸(沢用語で上流から下流に向かって左側を左岸と呼ぶ 従って登っている時には下流から上流に向かっているので右側を左岸と呼ぶ)を進んでいきます 少し微妙なトラバースが数か所あってドボン!あり
絶景の函を通過すると再び単調な河原歩きが続きます

大石沢出合、沼の沢出合、中の又沢出合とひたすら単調です 中の又沢出合の手前右岸には川底から5mほど上部に落ち葉の絨毯が敷き詰められた最高級のビバークサイトがあります
中の又沢出合からほどなくして葛根田大滝に到着

大滝は5mと15mの二段滝ですが2005年と2008年の時には苦も無く通過しているので、どのように通過したのか記憶に残っていません  いったん一段目5mを登って15m滝の滝つぼまで行ってみましたが両岸ともに高巻は不可能
仕方なく一段目5m滝を下降してみると左岸に巻き道を認めることができました
巻き道を登りトラバースして沢へ下りましたが、灌木を支点にしてロープを使用しました 下降距離は10m 支点は下向きに生えている灌木なので直接ロープをかけることはできません 灌木にスリングで巻き付け結びを行う必要があります
ここは細い残置ロープがありますが、とても古くて劣化しているので使用しない方が良いと思いました

葛根田大滝を過ぎると本日のビバーク予定地である滝の又沢出合までは40分でした
滝の又沢出合まで10分ほど手前から雷鳴が聞こえはじめました
2008年に使用した河岸段丘は消滅しておりましたが、更に安全なブナの森の中に素晴らしいビバークサイトを見つけました と同時に雷雨になりました

ずぶぬれになりながらタープを張り、熊よけの爆竹を鳴らしてほっと一息つくことができました 雷雨なので短時間でやむだろうと高をくくっていましたが止みません
もちろん沢は泥水の濁流状態 炊事の為の水の確保ができません
すきっ腹を抱えて17時頃まで待ち、まだ水は濁っていましたがSさんが浄水器を持っていたので濾過して水を確保することができました

四人でしたので一食分として無洗米は2.5合 それに豚汁を用意しました 出発前に二日がかりで準備した乾燥野菜、乾燥豚肉などを豊富に用意していましたので具沢山の豚汁になりました
雨で焚き火用の薪は濡れてしまいましたが焚きつけ用に固形燃料を用意していましたので焚火をしました 蚊取り線香を焚きましたがアブには全く効果がありませんでした
雷雨の止んだ深い森は霧に覆われ、その霧を通して満月の光がビバークサイトを照らしていました

7月23日
本日は源流部を遡って八瀬森山荘までの行程なのであわてて出発する必要はありません
落ち着いて順序良く準備できる時間的余裕があるというのはありがたいことです
とはいえ段取りというものがあります

昨夜米を炊いたコッフェルには飯粒がこびりついています これに乾燥野菜・キノコ・豚肉を入れ水に浸しておきます これを昨夜のうちに準備しておきますと翌朝には乾燥野菜・キノコ・豚肉はほど良くもどっています
この具材を使用して「明星 中華三昧 赤坂榮林 酸辣湯麺」を作りました
「酸辣湯麺」を調理したコッフェルに再度水を入れて湯を沸かします その湯を食器に満たしオニオンスープやお茶やコーヒーなどを飲みますと食器もきれいになります
タープもある程度乾きましたので畳んで出発

857mで右岸(左側)から入る支流を選択 この支流は出合に多段滝があって2008年の遡行時には増水しており長女敦ちゃんと苦労しました
多段滝を越えるとおだやかな渓相になり両側にビバーク適地が展開されるようになります
929mの分岐は左を選択 ここは右を選択しても良かったかもしれません

まもなく熊の密度が高いことが感じられる状況になり熊鈴を鳴らしながら遡行を続けました
一度、藪の動きと足音から熊とかなり接近したことが感じられる場面がありました
1087m地点で最後の滝 これが曲者でした 10mの滝ですが登攀不可能なので左側を巻きましたが5.10程度の難しさがありました
30mほどロープをのばし尾根に出て、尾根沿いに大場谷地へ出ようと試みたのですが藪漕ぎがはなはだしく100mほど進んだところで断念し沢へと懸垂下降して本流を登り返しました

本流に沿ってしばらく登ると藪漕ぎはほとんどなく大場谷地の高層湿原に飛び出ました
八瀬森山荘は2008年と同じように建っていました
2008年と違っていたのは二つです
  • 八瀬森山荘の外装は2008年のままでしたが内装は新しくなっていました
  • 山荘内の焚火はできないようになっていました
本日の八瀬森山荘は13名の宿泊者がありました
八瀬森山荘に到着後、30分ほどしてから雷雨になりました
それでも堅固な八瀬森山荘内にいるぶんには大荒れの天候でも全く気になりません 窓に打ち付ける雨を見ながらカワハギの干物を焼きながらお酒を飲みました
夕食は「乾燥野菜・キノコ・豚肉」によるカレーです 甘口のカレールーを使用しましたがスパイシーな香りも高く、とても美味しくいただくことができました 二階の宿泊者が酔っ払って暴れるという事件がありましたが、それが終わると静かな夜となりました

7月24日
本日は三ツ石山を経由して滝ノ上温泉まで下るという8時間にも及ぶ長丁場になります
しかも本日中に東京まで戻ろうという魂胆なので早朝出発となりました
早朝出発ができるかどうかは前日の段取り次第なので昨夜のうちに2.5合の米を炊いていました そして昨夜のカレー調理に使用したコッフェルを水につけておきました

4時に目覚ましが鳴り起床
事前の段取りにしたがって私が水汲みに行ってガスバーナーに点火
昨夜炊いておいたご飯を素直さんがそれぞれの器に盛って、それを永谷園の海苔茶漬けでいただきます! 起床してから朝食が終わるまで15分間のできごとでした 手慣れたメンバーならではの素晴らしいスピードでした
それぞれ2リットル以上の飲料水を各自確保して八瀬森山荘をあとにしました

八瀬森山荘の外に広がる大場谷地は朝霧を通して陽射しを感じます どうやらこれから夏空が広がりそうな予感があります
八瀬森から関東森を経て大深山分岐点までの間は笹の繁茂が激しく、時に道を失ったのかと思うような状態が続きます 道はぬかるんでおり沢靴のままで歩き通しました
1,490mの大深山分岐点から三ツ石山方面へと向かいました このあたりから登山者と頻繁にすれ違うようになり、登山道もはっきりしてきました
松川温泉から三ツ石を経て大深山に登頂し源太ヶ岳を経て松川温泉へ戻るというのはメインストリートで笹の刈払いも行われており関東周辺の山々と同じように整備されているようです

途中に建っている三ツ石山荘で一休み 大きな池塘の湖畔に建つ三ツ石山荘には清潔なトイレと大型の薪ストーブがあります 数日分の食料を担ぎ上げてここに滞在したいと思わせるような避難小屋でした
三ツ石山荘は十字路になっており稜線上をさらに歩くと岩手山、北へ下ると松川温泉 南へ下ると滝ノ上温泉へ達します 私たちは滝ノ上温泉に車を停めているので南下します
下り始めてまもなく水場がありました 水量が少ないので枯れることがある可能性がありますが甘露とはこのことかと思うほどでした

三ツ石山荘から滝ノ上温泉までは標高差650mですがブナの森を穏やかに下っていくのでたっぷり二時間を要しました
滝ノ上温泉の休憩舎には水道があって、ここで泥まみれになった沢靴を洗ってから隣接する「滝観荘」で入浴 カランが旧式で温度調整に微妙なテクニックが必要とされましたが、お湯自体は最高でした

15時に東京へ向かって出発 紫波で軽食を摂り、22時前に八重洲到着
四街道には23時帰着でした

函の通過




滝の又沢出合のビバークサイト
タープの張り方や焚火の仕方にもキャンパーのそれとは異なる特有の工夫があります

857mで流入してくる枝沢の多段滝を登る

藪漕ぎもほとんどなく大場谷地へと飛び出る

八瀬森山荘 2008年撮影

八瀬森山荘での憩い
今回はこれ!




三ツ石山荘

三ツ石山荘前の池塘

三ツ石山荘の水場

滝ノ上温泉 滝観荘

7/21
19:30八重洲→25:00盛岡コンビニの駐車場で仮眠
7/22
盛岡→滝ノ上温泉
07:08出発 07:58入渓点  08:22遡行開始 10:00函 10:48大石沢出合 11:30沼の沢出合 11:36中ノ沢出合 12:01葛根田大滝 12:42高巻終了 13:21滝の又沢出合
7/23
08:10出発 08:31枝沢分岐点 09:40分岐点929m 11:27最終滝 13:49最終滝上 14:09大場谷地 14:21八瀬森山荘
7/24
05:15出発 05:51関東森 08:52大深山分岐点 09:50小畚山 10:43三ツ沼 11:10三ツ石山 11:40三ツ石山荘 13:54滝ノ上温泉(入浴)15:03出発
22:54四街道帰着


0 件のコメント: