昨年のエルキャピタン「The Nose」ではゴーアップ(Go up)の初日に敗退の危機があった
夏のエルキャピタンの暑さは厳しいものがあるが9月中旬以降は気温もぐっと下がり10月下旬になると雪が降る そうなると必要な飲料水の量は減って、一人当たり一日で2リットルでたりる場合もあるようだが壁は混雑し順番待ちで日数がかかったりする 悩ましいところだ
昨年の9月初旬の壁はフライパンを熱したかのように高温でクライマーの姿はなく、一人当たり1日4リットルが必要だと見積もった そのため145リットルの巨大なホールバックには予備も含めて多量の飲料水が入っており、総重量は70㎏を超えていた
ホールバッグを荷上げするためには「セルフジャミングプーリー」というものを使う
この特殊なプーリーは抜重しないと解除できないので、荷上げを開始する時にホールバッグを片手で引き上げてプーリーから抜重して解除し、ホールバッグリリース用コードに荷重を移す必要がある
ところが70㎏のホールバックを片手で引き上げるというのは容易ではなく、ゴーアップの初日のストーブレッグクラックへのスイングのピッチでにっちもさっちも行かなくなった
フォローする息子が「どうしても解除できない」と大声をあげている
結局、息子は解除に成功した
絶対に弱音は吐かないということを信条としているマッチョな息子だからこそ70㎏のホールバックを片手で引き上げることができたのだと思う
70㎏を片手で引き上げることなど私にはとてもできない
そしてゴーアップの初日のビバークで息子が言った
「お父さん、こんな重いホールバックで登るのは馬鹿げている 明日は当然撤退だよね」
それに対して私は次のように答えた
「一日で8リットルの水を消費する 一日目には8㎏、二日目には16㎏、三日目には24㎏減る 日々楽になっていく 苦しいのはゴーアップの初日だけだ」
しばらくの沈黙があったあと息子は言った
「わかった」
初日かせいぜい二日目までの話だが、暑い時期の重いホールバッグのセルフジャミングプーリーからの解除は深刻な問題だ
これを解決するにはいくつかの方法が考えられる
一つは70リットルクラスのホールバッグ二つに分割するという方法だが、ホールバッグが二つになる分だけロープ操作は複雑になるが現実的である
そしてもう一つが何らかの仕組みで145リットルのホールバッグを引き上げてセルフジャミングプーリーから解除するという方法だ
後者の方法について何か良いアイディアがないものかと、この一年間、折に触れて考え続けてきた
そして今日、帰宅途上でロープを操作しながら歩いていてひらめいた
思わずガッツポーズをしてしまった
ホールバッグを引き上げるのではなく、ホールバッグをリリースコードで一旦固定しておいてからセルフジャミングプーリーをホールバッグへ近づけるという発想の転換である
帰宅すると息子がダイニングにいたので、さっそくこのアイディアを伝えた
この方法を近いうちに試してみたい
こういうことを日々考え解決していくというプロセスそのものがビッグウォールクライミングの面白さの一つかもしれない
今夜は久しぶりに家族が全員揃った
本日の昼食